【本】データ分析の力 因果関係に迫る思考法(伊藤公一郎、2017)
著者:伊藤公一郎
シカゴ大学公共政策大学院ハリススクール助教授。82年生まれ。
【内容】
データ分析について、特に実社会のデータからいかに因果関係を明らかにするかという観点でわかりやすく解説している。実社会のデータから因果関係を導くのは一般に非常に困難であるが、データの切り口を工夫することで信頼性の高い結果を得ることができる。ベストなのは実際に厳密な比較実験をしてしまうことであるが、これはランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる。ただし、限られたリソースでRCTを行うのは困難である場合が多く、その場合は次善の策としてRD(Regression Discontinuity)デザインや集積分析、パネル・データ分析が用いられる。こうした実験方法の具体例から強み、弱みまで数式を使うことなく解説されている。
【所感】
やりたい実験があるとして、そのためにデータをゼロから集められればいいが、それができない場合でも既存のデータに対する切り口しだいで美しい実験ができるということが大変わかりやすく説明されている。だが、ビッグデータやAI全盛の今、この内容では少々物足りない。もちろん、最新の手法を盛り込もうとすればそれだけ難しい内容になるかもしれず、それは避けるべきとも考えられるが、今この時代だからこそできるようになったことについても触れてほしかった。ウェブサイトでのABテストなども紹介はあるが、常識レベルの記述しかない。本書がこのタイミングで出版されたことの意義がいまいちわからなかった。